私は就職後、約20年間、医療や年金を扱う組織で勤務していました。
公的医療保険や公的年金は、とても複雑な制度であり、年齢や勤務状況、家族構成などによって加入する選択肢が変わってきます。
※公的医療保険制度:加入者やその家族など(被扶養者)が、医療の必要な状態になったときに、公的機関などが医療費の一部負担をしてくれる制度
※公的年金制度:日本に住む20歳から60歳未満のすべての人が何らかの年金制度に加入義務がある制度
この中で、今回は、会社を退職した後の健康保険の手続きについて概要をまとめたいと思います。
構成は以下のとおりです。
【目次】
【1】 前提(医療保険制度の体系)
【2】 退職後の健康保険の選択肢
【3】 私の選択肢(参考までに)
【前提】
まず、日本では国民皆保険制度といって、誰もが何らかの保険制度に加入することになっています。加入する制度は、年齢や勤務先など個々の状況によって異なります。
少し細かいですが、表にまとめると以下のようになります。
医療保険制度の体系
制度 | 被保険者 | 保険者 | |||
医 療 保 険 |
健康保険 | 一般 | 健康保険の適用事業所で働くサラリーマン・OL(民間会社の勤労者) | 全国健康保険協会、健康保険組合 | 業務外の病気・けが、出産、死亡 |
法第3条第2項の規定による被保険者 | 健康保険の適用事業所に臨時に使用される人や季節的事業に従事する人等(一定期間をこえて使用される人を除く) | 全国健康保険協会 | |||
船員保険 (疾病部門) |
船員として船舶所有者に使用される人 | 全国健康保険協会 | |||
共済組合 (短期給付) |
国家公務員、地方公務員、私学の教職員 | 各種共済組合 | 病気・けが、出産、死亡 | ||
国民健康保険 | 健康保険・船員保険・共済組合等に加入している勤労者以外の一般住民 | 市(区)町村 | |||
退 職 者 医 療 |
国民健康保険 | 厚生年金保険など被用者年金に一定期間加入し、老齢年金給付を受けている65歳未満等の人 | 市(区)町村 | 病気・けが | |
高 齢 者 医 療 |
医療制度 |
75歳以上の方および65歳~74歳で一定の障害の状態にあることにつき後期高齢者医療広域連合の認定を受けた人 | 後期高齢者医療広域連合 | 病気・けが |
(出典:全国健康保険協会HP)
この中で、今回お話するのは、表の一番上の部分にある「健康保険(一般)」という部分になります。
民間企業で働くいわゆるサラリーマン・OLの方々が加入する健康保険になります。
※主に大企業の方が加入する「健康保険組合」と主に中小企業の方が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2つがありますが、当記事では「全国健康保険協会」の加入者を対象としてお話します。
在職中は、表の右端にあるように、病気や怪我、出産、死亡といった給付事由が発生した場合に保険給付を受けることができます。
(毎月のお給料から保険料が徴収されていますので、給付事由が発生したら適切に保険給付を受けましょう。手続き等は職場の事務担当者や全国健康保険協会へ遠慮なく尋ねるようにしてください。)
一方、当然ですが、退職をした場合にはそれまでの健康保険の資格を喪失することになります。保険証が有効なのは退職日当日までですので、退職日の翌日以降に加入する健康保険を決める必要があります。
前段が長くなりましたが、次に退職後の健康保険にはどのような選択肢があるかお話します。
【2】退職後の健康保険の選択肢
(サラリーマン・OLの場合)退職後の健康保険は大きく3つに分かれます。
【1】任意継続健康保険に加入する
【2】国民健康保険に加入する
【3】家族の扶養に入る
それぞれ手続き先や保険料負担額等に違いがありますので、比較して最も有利な選択肢を選びましょう。
表にまとめると次のようになります。
加 入 先 | 協会けんぽの任意継続 | 国民健康保険 |
ご家族の健康保険 (被扶養者) |
手続き先 | お住まいの都道府県の | お住まいの市区町村の
国民健康保険担当課 |
ご家族の勤務先 |
加入条件 | ・退職日までに被保険者期間が継続して2ヵ月以上あること
・退職日の翌日から20日以内に手続きすること |
お住まいの市区町村の
国民健康保険担当課に お問い合わせください |
・ご家族が加入している
健康保険の扶養の条件を 満たす必要があります ・ご家族の勤務先にお問 い合わせください |
保 険 料 | 保険料は、退職前に控除 されていた保険料を2倍した額になります
※ただし、保険料の上限があります。また、お住まいの都道府県と退職前に加入されていた協会けんぽの都道府県が異なる場合等、2倍にした額とならない場合があります。 |
・保険料は、加入する世
帯の人数や、前年の所得 などによって決まります ・保険料の減免制度があ ります ・お住まいの市区町村に より保険料額が異なります |
被扶養者の保険料負担は
ありません |
(出典:全国健康保険協会HP)
それぞれメリット・デメリットとして以下のものが考えられます。
【任意継続】
《メリット》
・在職中とほぼ同じ内容の保険給付が受けられる
・保険料の上限額が比較的低く設定
・扶養者が何人いても保険料が変わらない
(扶養者が多い場合、国民健康保険に比べ有利)
《デメリット》
・都道府県ごとにより保険料率が異なる
・加入に一定の条件がある
・扶養者が何人いても保険料が変わらない
(単身者の場合、相対的にお得度が低い)
【国民健康保険】
《メリット》
・保険料の軽減制度がある(所得が一定の基準を下回った場合に軽減あり)
・保険料の減免制度がある (倒産や解雇の場合に減免あり)
《デメリット》
・保険料の上限額が高い
・前年所得をもとに保険料が算出するため、翌年の保険料額が高くなる傾向にある
・任意継続に比べ保険給付の対象範囲が狭い
【家族の扶養】
《メリット》
・保険料の負担がない
《デメリット》
・扶養者として認定されるためには一定の要件がある(続柄、収入、同居の有無など)
・任意継続に比べ保険給付の範囲が狭い
このように、それぞれ一長一短がありますので、よく比較して決めましょう。
ちなみに、保険料負担だけを考えるならば、扶養に入るのが最も有利です。
もちろん、他にも様々な要因があるので、まずは保険料を比較した上で、保険料以外のメリットを比べて決めるようすると良いでしょう。
【3】 私の選択(参考までに)
実際に私が退職した際に選択したのは、健康保険の任意継続制度の利用でした。
(私の場合、妻はパート勤務で社会保険に加入していなかったので、家族の扶養に入るという選択肢は選べず、任意継続か国民健康保険かの2択でした。)
まず、 加入条件である2ヶ月以上の勤務期間は問題なく満たしておりました。
また、保険料額についても、(私の場合は)国民健康保険に加入するより、任意継続を利用した方がかなり安くなるので迷わず任意継続を選択しました。
一般的に、在職中にもらっていた給料が一定額以上の場合は、任意継続を選択した方が有利になります。
主な理由は、任意継続も国民健康保険もともに保険料額の上限が定められていますが、その上限額が任意継続の方が低く設定されているためです。
具体的に言いますと、任意継続の1ヶ月あたりの保険料負担は、退職前の健康保険料額の約2倍となります。
しかし、退職時の給料額(正確には標準報酬月額)が300,000円を超えていた場合には、300,000円を上限※として計算することになります。
※2020年3月現在
つまり、給料の総支給額が300,000円以上であれば、上限で頭打ちになるため有利となるケースが多いと思われます。
※保険料率は都道府県ごとに異なりますので、詳しくは協会けんぽの各都道府県支部へご確認ください。
一方、国民健康保険の保険料は主に加入する世帯の人数や、前年の所得額などをもとに決定されますが、その上限額は市町村により異なります。
例えば私の住む市町村では上限が年間約80万円(月額6.7万円)となっています。
一方、任意継続の場合は、約30,000円/月程度となりました。
※どちらも健康保険料のみで40歳以上の方に発生する介護保険料は考慮していません。
よって、私は任意継続の保険への加入を選択しました。
まとめ
このように、私のケースでは、任意継続と国民健康保険で約2倍の保険料差となりました。繰り返しになりますが、保険料の算出方法は個々の状況で変わりますので、必ずご自身にとって、どの選択が最も有利になるのかを確認することが重要です。
健康保険の制度はとても複雑ですが、私達のライフサイクルの節目節目で必ず関わってくるものだと思います。この記事は、簡単な概要しか触れておりませんが、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
興味をもたれた方は、ぜひ、ご自身で公式のサイトをご覧いただくか、直接、役所等へお尋ねいただきますようお願いいたします。
今後ともよろしくお願いいたします。